2013年7月23日火曜日

甲賀の里に雨を呼ぶ楽打ち太鼓の響き     -滋賀県 黒滝花笠太鼓踊り-


棒振り 惣王神社の境内にて

暑中お見舞い申し上げます。
今年は早い時期から猛暑続きの天候で、まだ7月?ってな感じの毎日。
交わす挨拶も「今日も暑いですね」が決まり文句のようになってしまっていますよね。
皆さん、バテバテになってはいませんか?
しかし、暑い夏はこれからが本番ですよ。
まだまだ、あと2ヶ月は、酷暑との闘いですね、頑張っていきましょう!

さあ、そして、いよいよ夏祭りも本番の時期になりました。
各地で盆踊りや花火大会がスタート。
お祭りフリークの私としては、ウカウカしていられません。
今年はどこのお祭りに行こうか思案の日々です。


太鼓打ち

そんな中で、夏祭りのスタートに選んだのが、今日ご紹介する「黒滝花笠太鼓踊り」です。
場所は滋賀県甲賀市土山町、清流が流れる静かな山村の黒滝地区です。
この土山町には地区ごとに、これからご紹介するような太鼓踊りが伝承されており、それらを総称して「土山の太鼓踊り」と呼び、平成元年(1989年)に滋賀県の重要無形民俗文化財に指定されました。 
棒振り

はっきりとした記録こそ残ってはいませんが、起源は平安から室町時代とされ、雨乞いの踊り、また豊作祈願の踊りとして伝承され続けてきたそうです。
以前にも書きましたが、こうした小さな山村に伝承される伝統芸能は、傀儡子(くぐつし)といった旅芸人により根づいたものが多く、「黒滝花笠太鼓踊り」もまた、民衆の大衆芸能から始まり、その後、「雨乞いの踊り」として発達したのではないかと思われます。←(資料がないので、あくまでも個人的見解です)

その根拠は?と問われると大変難しいのですが、踊り自体は、間違いなく「田楽」の流れを汲むものであり、おもに九州地方に多い「楽打ち」(胸や腹に太鼓を結び打ち鳴らす方法)や仮装して、太鼓などで囃し、歌い踊る形態は、桃山時代の京都を起源とする「風流踊り」に分類されます。


黒滝花笠太鼓踊り

また、祭礼の最後に行われる「湯立神事」は、伊勢地方に多く、「里神楽」に分類される「巫女神楽」のひとつでもあり、要するにあちこちの祭りをミックスしたような形。
これらのヒントから察するところ、やっぱり地方を転々とした旅芸人の置き土産と考えられるのではないでしょうか。
まあ、私の勝手な解釈はアテにならないのでこれくらいにして、お祭り見物といきましょう。

黒滝花笠太鼓踊り」が行われたのは、7月14日。(毎年7月の第二土曜日に行われます)

惣王神社

朝8時に家を出発した私は、いちろ甲賀市に向かってGO!
多少の渋滞にも巻き込まれましたが、祭り開始の10時には、なんとか間に合いました。
駐車場を探してウロウロ走っていると、集落の坂道を下って行列が来るではありませんか!
ありゃりゃ、こうしてはいられないと地元の方に車を止められる場所を伺うと、祭礼が行われる「惣王神社(そうおうじんじゃ)」の横手の川沿いに停められるとのこと。

囃し手

急いで車を駐車して、カメラを担いで汗だくで走りましたよ(~_~;)
この日の天気は、晴れたり曇ったり小雨が降ったりの予測不可能な雲行きです。
取りあえずカメラが濡れないようにタオルに包んで走ったけれど、見る見る間に雨雲は退散、天候は快晴に・・・・
さすが私は晴れ女(*^^)v

いらなくなったタオルを首にぶらさげての祭り見物で、地元の方と同化した私は、すぐ地元のおばちゃんたちと仲良しになれましたよ。

棒振りと太鼓打ち


隣りにいたおばちゃんは、なんと、汗だくの私にウチワで風を送ってくれる優しさ。
心に沁みます・・・(*´v`*)ジーン

小さな集落の祭りとあって、カメラマンも15人ほどしか来ていません。
三脚をドーンと構えた高圧的なオジサンもいなくて、和やかムードが嬉しいじゃないですか!
祭礼が行われた「黒滝惣王神社」は、地元集落の氏神様。


農道を行く行列

神社の横には、清流が田村川が流れ、背景に鈴鹿の山々を背負って静かに佇むお社は、普段は宮司もいないであろう小さなお社と集落の集会場があるだけです。
もちろん、近くにコンビニなんてありません。
今日だけは、にわかに人も集まってはいますが、普段は静かな静かな山里なんだろうなぁ~

子供に笹笛を教える和やかな光景



さて、では当日の祭りのようすをお伝えしましょう。
祭りの一行は全部で20人ほど。
神官を先頭に巫女や集落の長(おさ)、棒振り(踊り手)・太鼓打ち・法螺貝吹き・囃し手の順番で境内に入ってきました。

棒振りは赤い鬼面をつけて、頭には山鳥や雉の羽根で作られた飾り物(ジャンマと言うそうです)をのせ、片手に軍配、もう一方の手に2mほどの両角に飾りのついた棒を持って踊ります。
その他の演者は、中心に和紙で作った30㎝位の花飾りを5本立てた花笠を被っています。
また、その被り物に周りには10㎝位の紅白の和紙のテープがぐるりと暖簾のように垂れ下がっていて、顏が見え隠れするのですが、それもまた風情があって素敵です。
棒振りと太鼓打ちは絣の半着物に裁着袴、法螺貝吹きと囃し手は白装束です。





奉納舞いは、法螺貝吹きの合図で踊りは始まり、囃し手の唄に合わせて棒振りと太鼓打ちが踊るのですが、テンポは、さほど速くもなくゆったりとした舞いです。

黒滝花笠太鼓踊り」は、雨乞いの踊りと言い伝えられています。
棒振りの動作も飛んだり跳ねたりはしますが、それ自体はそれほど激しいものではなく、勇壮というより、むしろ優美な舞いと言えると思います。
囃し唄は、日のばやし・神楽踊り・天王踊り・住吉踊り・山神踊り・大順役・京嶋踊り・小順役・伊勢嶋踊り・巻狩踊り・仙松踊り・お寺踊り・大国踊りの12曲とされています。
それに合わせた踊りが12種類あるわけですが、曲調の変化も、曲の始めや終わりもはっきり分からないため、観ているだけの私には淡々と繋がっていくひとつの舞踏にしか見えません。


湯立神事用の釜

もちろん、ひとつひとつの曲に意味があるはずなので、しっかり見分けたいと目を凝らして観たのですが、やっぱり難しかった ( ̄◇ ̄;)
曲調にも殆んど抑揚がなく、淡々とした穏やかなものであり、お囃しも法螺貝と唄、太鼓だけなので、至ってシンプル。
しかし、このシンプルさがこの山里の静けさには良く似合います。
太鼓の音だけが、静かな山並みに吸い込まれていきます。
そこには、懐かしさと郷愁、深い安らぎが感じられました。

ひとしきりの奉納舞いが終わると、巫女による「湯立神事」が執り行われます。

湯立神事」とは「湯神楽」とも呼ばれ、ここで行われたのは伊勢地方から波及したと云われる巫女による代表的な「神楽」で、伝統的神事です。
お社の神前には釜がすえられており、ちょうど奉納舞いが終わる頃には、薪で焚かれた釜にはグラグラと湯が沸いています。


巫女舞


巫女による祈祷が行われた後、釜湯の中に米やお神酒などが差し入れられ、笹の葉を束ねた玉串をもった巫女がグルグルと回転しながら激しく舞い踊ります。
こう言っちゃなんですが、「花笠太鼓踊り」より、こちらの方が迫力満点だったりして?!
まぁ、要するに巫女そのものが神憑りとなり、その年における作物の吉凶を占う場面の再現であるのですから、この迫力にも納得です。
巫女による乱舞が終わると、一転穏やかになった巫女は、周囲の人々にその湯をかけて清めて下さいます。
私もカメラが濡れないように急いでお腹に抱え、頭を垂れてありがたく、お浄めのお湯をかけて頂きました。



これで、今年も無病息災に暮らせそうです、ありがたや、ありがたや(#^.^#)

そして、すべての神事が終わると、巫女様が玉串に使われていた笹の葉を1本1本観客に分けて下さいました。
下さるものだから、素直に受け取ったものの、ん?これ、どうしたらいいのかなぁ?と不思議そうな顏をしている私に、地元のおばさんが教えてくださいましたよ。

お浄めの神事

「家に持って帰り、神棚にお供えしなさい」と。
福笹というこのなのですね、ありがとうございます(^▽^)/
しかし・・・考えてみれば、我が家には神棚はないのだけれど・・・。
神棚がなくてもいいのです!
祈る気持ちと幸福を願う気持ちがあれば、どこだって。
現在、その笹の葉は招福の願いを込めて玄関先に置かせて頂いていますよ(*^^)v

瑞雲禅寺での舞い


その後、神社での神事が終わると一行は、500mほど歩いて、これまた、この集落の菩提寺でもある曹洞宗のお寺、瑞雲禅寺へと向かいます。
静かな集落の農道をゆっくりと歩く行列は、じつに美しい日本の風景です。
心にジーンと沁みわたる温かさがあります。


瑞雲禅寺に到着すると、その境内で2~3曲ほど舞い、この年の「黒滝花笠太鼓踊り」は終了となりました。
全部合わせても、ほんの2時間程度の祭礼ではありますが、この小さな集落においては、大切に守られてきた伝統の祭りです。
祭りの露店などは、1軒もありません。
子供たちも走り廻ってはいません。
しかし、老若男女すべての人たちに笑顔がこぼれます。



私は、ここに日本の祭りの原点を見たような気がします。
儀式としての祭礼、豊穣祈るささやかな祭り。
過疎により、消えつつあるこうした小さな集落に残る伝統芸能の大切さをひしひしと感じた一日でした。

夏祭り季節です。
華やかな花火や都会の大きなフェスティバルに目を奪われがちな昨今ですが、こうした小さな町の小さな祭りにも目を向けてみませんか?

そこには人知れず脈々と受け継がれてきた伝統と、豊かな自然に恵まれた美しい風景と優しい時間が流れていますよ。

では、今日はこの辺で失礼いたします。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
また次のお祭りでお会いしましょう (^.^)/~~~