2012年4月9日月曜日

山間を駆け抜ける船だんじり  八百津祭り

「黒瀬組」

桜の花もほころぶ春4月、いよいよ春祭りの季節到来です。
私の住む中部地方でも、週末ともなれば各地で祭りが催されます。
出来ることなら、すべて紹介したいのですが我が身はひとつ、私の勝手なチョイスとなることをお許しください。
今回、ご紹介する春祭りは、岐阜県加茂郡八百津町の「八百津祭り」です。
八百津(やおつ)町は、岐阜県の中南部に位置する山林に囲まれた静かな町です。

本郷組



八百津の「津」という字は「港」という意味をもちます。
海に隣接していない岐阜県において、なぜ「港?」と思われるでしょうが、「港」は海岸にあるとは限りません。
かつて鉄道や車の無かった時代、川にだって「港」はいくつも存在したのです。
八百津の町の8割は森林であり、その森林と森林の間に流れる雄大な木曽川の河岸に存在した「川港」により繁栄を極めた八百津の町。
芦渡組

江戸の昔にさかのぼれば、ここが木材の運搬基地として船運業で繁栄したようすが、往時の面影を残す街並みからも垣間見ることができます。
現在は、林業の他にこれといった産業もないことから、周辺の地域から遅れをとった感じがあることは否めない町ですが、それだけに山間の静かな生活や伝統が綿々と受け継がれ、誰の心に郷愁を抱かせてくれる懐かしい町です。

八百津町の街並み

また、「命のビザ」で知られる元外交官、杉原千畝の出身地としてこの地を一躍名にしたのは、映画「シンドラーのリスト」公開後で、日本にも命がけでナチスドイツからユダヤ人を守った人道主義者がいたのだという事実に多くの人が感動したことは、皆さんの記憶にも残っていることと思います。
その杉原千畝の功績を称え、20年程前に開園された「人道の丘」には、杉原千畝記念館も併設され、多くの資料とともに、杉原千畝のひととなりを知ることができます。

八百津町の街並み

そのほか、八百津町名物と言えば「八百津せんべい」
昔ながらの小麦粉で出来たせんべいは、ちょっぴり甘くて素朴な味わい、懐かしい味がしますよ。
さて、前置きが長くなりましたが、ここいらで祭りの紹介をしましょう。
「八百津祭り」は、毎年4月の第一土曜、日曜に行われる八百津町の産土神(うぶすながみ)である「大舩神社」の祭礼です。
私の訪れたのは、2日間行われる祭りの試楽と呼ばれる初日。


本郷組
春とはいえ、まだ肌寒い風が吹く冷たい日、到着したのは午前10時半です。
家々には祭り提灯が吊るされ、中には日の丸の国旗が掲げられた家もありました。
駐車出来る場所を探して街中を走っていると、早くも用意万端の「だんじり」を発見、予想以上に大きさに、まずはびっくり。
集まっていた人たちに駐車場の場所を聞いて車を駐車し、先ほどの「だんじり」のもとへと急いで戻ると、親切にも横にある和菓子屋さんの奥さんが「まだ、時間があるからお茶でも飲んでいきなさい」と声をかけてくださいました。

芦渡組


ありがたいお言葉に甘えて店先でお茶を頂き、祭りのことをあれこれ教えていただいたので、せめて和菓子を買うことでお礼をしようとしたら、「無理に買わんでいいよ」とまで、おっしゃるではないですか!
なんという、優しい心遣いなのでしょう。
「では、帰りがけにもう一度寄らしていただきます。そのときにお土産を買わせて下さい」と言うと、にっこり微笑んで「いい写真撮ってね」と送り出してくださいました。


黒瀬組」
なにより嬉しいのは、こうした出会いです。
もう二度と会うことのない人であっても、暖かく迎え入れてくださる地元の人たちとの会話。
こうした触れあいが祭りばかりではなく、「ああ、ここに来てよかった」という思い出として私の心に印象深く残るのです。
話がまた横道に逸れてしまったので「だんじり」の話に戻しましょう。
1番先に出会った「だんじり」は熊野神社前で待機している「黒瀬組」の「船だんじり」
全長は約9m、高さは約6m、重量は4トン。
高さこそ普通ですが、長さがすごい!
船の舳が載った形のこの「だんじり」は、いままで見てきた山車のなかでも最長です。


芦渡組
しかし、なにより驚いたのは、これまで見たどの山車より小さな車輪、はっきりとは分かりませんが、直径80㎝余りしかなかったように感じます。
こんな大きな「だんじり」に、こんな小さな車輪で大丈夫なんだろうかとも思いましたが、動きだしたところで、すぐに納得しました。
八百津町の道はとても狭いのです。
全長の長い「だんじり」であるからこそ、小回りの利く小さな車輪でなければいけなかったのでしょう。
しかし、車輪が小さいということは動かすのに相当な人力が必要となるわけです。
本郷組

そこで、この「だんじり」を引くために、普段は都会で暮らしている若者たちも必然的に帰ってこなくてはいけなくなるのです。
そうやって、故郷の祭りは守られていくのだと、改めて感慨深く思いました。
ところで皆さん、船の形をした山車を見たことがありますか?
船型の山車は、日本各地にあるそうですが、私は今回が初めてなので、それだけで、もう最初から興奮ぎみ。
これまで、華麗な彫刻や装飾、あるいは人形カラクリの施された雅やかな山車や屋台を多く見てきましたが、八百津祭りの「だんじり」は、それらとは、また違う勇壮な姿をしていました。
どう表現してよいのか分かりませんが、一言でいうなら「雄々しい」という形容詞がふさわしいと思います。
八百津町には、3両の「だんじり」があり、祭りのクライマックスには、その3両が連結して一艘の大きな船となるのです。
地区ごとの競り合いや競演ではない祭りに、私はこの町らしさを感じるたのですが、皆さんはどう思われるでしょうか?
ここで、「黒瀬組」の1両だけに留まっているわけにはいかないので、他の2両の探索に出かけましょう。
2番めに出会った「だんじり」は「本郷組」

黒瀬組
3両連結の中央にあたるこの「だんじり」には、先ほど出会った「黒瀬組」の「だんじり」のような船の舳はありません。
しかし、舳がない分尖ってはいないので、正面からはより大きく見えます。
連結の中央にあたるせいか、この「だんじり」には、漆塗りが施されてはいないので、ちょっぴり地味目です。
そして、探し回ったあげくやっと最後に見つけたのが、「芦渡組」の「船だんじり」
この「だんじり」には「黒瀬組」の「船だんじり」同様、船の舳が載っています。
一見した感じでは、「黒瀬組」と「芦渡組」の「船だんじり」は、見分けがつかないのですが、舳に日の丸を掲げた方が「芦渡組」で、舳に榊を飾ってある方が「黒瀬組」なのだと気が付きました。
さて、いよいよ3両の「だんじり」が連結するクライマックスも近づいてきました。

木曽川 八百津大橋

祭りの初日は、八百津大橋の上での連結になるということだったので、近くにいたのでは3両連結された「だんじり」の姿をカメラに収めることは出来ないと思い、大急ぎで車に戻り、八百津大橋が見下ろせる国道に車を走らせましたが、この判断が大間違いでした。
間に合わなかったのです・・・。
ビューポイントに着いた時には、すでに連結は終わり、引き上げていく「だんじり」の後部が少し見えただけでした・・・(>_<)
皆さん、ごめんなさい。
私の判断ミスにより、祭りのクライマックスである最も重要な画像をお見せすることができませんでした。
どうぞ、お許しください<(_ _)>

しかし、私にとっては、勇壮な祭りに出会えたこと、八百津の人たちのご親切に触れあえたこと、とても有意義な一日でした。
もし、機会があれば再度、訪れてみたい町であり、祭りでもありました。
その時こそ、一艘の船になった「だんじり」をバッチリ、カメラに収めてきますので、気長に待っていてくださいね。

PS
このあと私は、和菓子屋の奥さんとの約束を果たすべく町に戻り、奥さんにお礼を言い、草餅と桜餅を2個づつ買い求め家路につきました。

4 件のコメント:

  1. 池田さん>今日は、祭りの事が良く分かります、それに此の地域の事も、クライマックが撮れなくて残念でしたね、でも人の触れ合いが其れを帳消しにしてくれた様に感じました。撮影に行き目的の物が撮れないのは悔しいですが祭りは続きます、人と人の触れ合いは、其れに代え難い物だと思っています。文章が苦手で上手く表現出来ません、此れからもこのHPを楽しみにしています。櫻井良治

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    1. 櫻井さん、コメントありがとうございます。
      クライマックスの写真が撮れなかったことは非常に残念でしたが、祭りとの出会い、人との出会いが私に充実感をもたらせてくれました。
      励ましのお言葉を胸に、これからも日本の伝統文化を少しでも皆様にお届け出来るように頑張ります。ありがとうございました。

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    2. 池田さんの説明は分かりやすくて行ったような気持ちにさせてくれます。
      此れからも楽しみに読ませて頂きます。

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    3. 櫻井さん、ありがとうございます。
      これかも頑張ります。

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